冷蔵庫にあった卵が全部腐っている夢を見た。
買い置きの卵まで全部。夢の中で、相当焦った。
起きてみて、なんて言うくだらない夢を見たのかと思った。




たまご




「・・たまご焼きと目玉焼き並んでるの俺初めて見たかも」

起きてきたシカマルが朝食を見て、そう言った。
夢が夢だっただけに、少し確かめたくなっていくつか割ったら多すぎた。

「いや、ちょっと夢で」
「夢?」
「朝食作ろうとしたら、卵が全部腐っている夢を見て」
「で、結果これか」

かちゃんとシカダイが持っていたスプーンを落とした。
呆れているシカマルが、スプーンを拾ってたまご焼きを一つ口にした。

「手で物を食べるな」
「・・母ちゃんみたいだな」
「言うな。自分でもあんな夢見て主婦になってる自分に嫌気さしてるんだから」
「主婦だし、母ちゃんだろうお前」
「めちゃくちゃ焦ったんだぞ、卵ないとあんなに困ると思わなかった。」
「夢の話だろう」
「夢の話さ、私は今日から仕事なんだからな。」
「仕事復帰の日に見る夢かよ」

1年の育休をもらって、復帰の朝だった。
子供を産む前に切った髪が元の長さに戻って、結う髪にもなつかしさがある。
今日から、シカダイは昼間ヨシノさんに見てもらうことになっている。
昨日の夜から、ヨシノさんのところに預けるときに持っていくものを確認して、
頭の中で朝どう動けばいいかシミュレーションもして眠った。
今日は書類の手続きとあいさつ周りをして、午後から、中忍と一緒にBランクの任務につくことになっていた。
だから、午前中の早い時間から火影庁舎に出なければいけなかったから、
シカダイも早くに起こしてご飯を食べさせなければいけなくて、
朝食も早くつくらなければいけなくて、とそれが悪かったに違いない。

「朝食の中身まで考えていたつもりはなかったんだけどな」
「は?」
「いや、いいさ。シカマル悪いけど、シカダイご飯食べさせてくれないか?
着替えてくるついでに、ヨシノさんのところに持っていくもの見ておきたい」
「昨日やってたじゃねーか。俺ももう出るぞ。」
「食べてるの見ているだけでもいいから」

ったく、と言いながら、協力してくれるシカマルがありがたい。
なんだかんだで、食器も片付けてくれているらしく、水が流れる音がする。
食卓に戻ったときには、シカダイが食べ終わっていて、食卓も片付いていて、あとはもう服を着替えさせて、出ることにした。

「あ、忘れてた」

片手にシカダイを抱いて、荷物を玄関先まで持って行っている途中大事なものを忘れていたことに気がついた。
1年間、ほとんど触られなかった鉄扇。
復帰の日が決まって、少しずつ慣れようと触ってはいたものの、背中にさすと背筋が引き締まった。
鉄扇を取りにいっている間に、荷物を持ったシカマルは先に出て、私もシカダイを抱いて家を出た。
少し先に、ヨシノさんの住むシカマルの実家についていたシカマルは、もうすでに荷物を置いて出ていった後だった。
私も、シカダイを渡して、お願いしますと、簡単な挨拶をして、走って仕事に向かう。
これから毎日続く日の1日目はバタバタの中ではじまった。
火影庁舎についたとき、外まで迎えに出てくれていたのはテンテンだった。
午前中の間ついていてくれるらしい。
朝のバタバタを聞いてほしくて、話をしながら廊下を歩くと、先についていたシカマルと会った。
木の葉で仕事をするようになった期間はしばらくあったが、こんなふうに会うのは初めてかもしれない。

「私、ここでシカマルに会ったの初めてだ」
「そうなの?木の葉に来て随分たつのに」
「私は外に出てばかりだったから」

シカマルは、少し私たちのところに来て、朝先に行って悪かったとだけ言ってまた仕事に戻っていった。
砂の額当てが木の葉のマークに代わり、それに慣れたころに子供ができて、また久しぶりに任務に就く。
目まぐるしく回る日々の中、今日からまた新しい日が始まる。
テンテンが案内をしてくれて登録室の扉をあける。
この扉を何度あけてドキドキを感じただろうと、そんなことを思った。

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いい夫婦の日に